特別公開!! 三条陸先生×芝田優作先生 獄炎対談②「現在」編

『勇者アバンと獄炎の魔王』第2部開始を記念し、Vジャンプ11月特大号にて掲載された三条陸先生×芝田優作先生の対談をWEBでも特別公開!今回は連載中の「現在」編を公開だ!
第1回の「過去」編はこちら

――今回は『勇者アバンと獄炎の魔王』が本格的に連載開始となってからのお話をうかがっていきます。第2話以降の物語はどんな流れで創られたのでしょう?
三条陸(以下:三条):第1話が完成するまではたしかまだコロナ前だったので、直接会って打ち合わせをしていたかな?
芝田優作(以下:芝田:そうですね。コロナ始まるかな…ぐらいのタイミングでしたね。
三条:でも第1話である程度「いけるな」と確信したので、第2話以降はほぼ現在の仕事のペースでやっていたと思います。原作ができたら原作打ち合わせをして、ネームができたらネーム打ち合わせをしてという流れを、現在はリモートでやっていますけど、そのスタイルがもう確立された感じかな。第2話から物語の展開も加速していきましたし。
芝田:レイラも出てきますしね。
三条:レイラも出てくるし、もう新キャラがどんな敵なのかみたいなのもね、バンバン明かしつつ描いて行きました。

――読者としても結構どよめきましたね。第2話から早くも物語が動きまくるじゃないですか。
三条:じわっとやらずに、ある程度過去のキャラクターもくすぐりつつ、見た事のない冒険もさせようという、そういう意味では第2話からもう、『勇者アバン』の構造はできあがっていたんじゃないかな。
芝田:少年漫画のセオリー的にも、ヒロインがちゃんと登場して、さらに最初の敵も出てきて、あと物語全体の、これからアバンストラッシュを会得するために世界中を回っていく、という骨子の説明もあって、セットアップができていっている印象で、さすが三条先生だな…と。そうそう、三条先生とのやりとりの中で、僕にとってとても面白く感じているのが「原作で立っているキャラを絵にできる事の楽しさ」なんです。たとえば第2話で頂いた文章原作のセリフで、キギロの「また出世してしまうなあ…!」というセリフがあるんですけど、このセリフに「三条作品らしいキャラ立ち」を感じて嬉しかったんです。だから原作で立っているキャラの演技をより大きく見せたいなあって。この第2話から現在まで、その感覚はずっと大事にしていますね。担当編集の金さんにも「キギロのこの表情良いっすねー!」って言ってもらえて、「ここセリフ良いんですよねー!」と。チームで盛り上がっていけそうな兆しがあったように思います。キギロはホント、初期に描いていてすごく楽しくて好きなキャラクターでしたね。

――三条先生の原作はセリフからすでにキャラが立ちまくっているんですね! 芝田先生が三条先生から原作をもらう時っていうのは、毎回どんなお気持ちなんでしょう?
芝田:いや、もう完全に読者の皆さんと同じ気持ちですよ(笑)。『勇者アバン』は、現在は「少年ジャンプ+」でも配信されているんですが、皆さんがコメント欄に感想を書いてくれるじゃないですか。あそこで書かれているのと全く同じ気持ちを、原作を頂いた時に僕も感じています。三条先生の原作はテキストなんですが、冒頭にその話の登場人物の名前が書いてあって、まずそこに載っているキャラに「ザボエラ」とか、最近だと「キルバーン」って書いてあると、「あ、ついにキルバーンが!」とか(笑)。「バダックさん出るの!?」とか(笑)。毎回そういうワクワクを僕ももらっています。ただ同時に、その原作を漫画にしなければならないのが僕の役目なので、やっぱりシーンによっては、「これ…どうやって表現しようかな?」みたいな事もあったりします。

――「魔物の軍勢20000体が攻めてくる」みたいな事も…?
芝田:三条先生が『ダイの大冒険』の時に稲田先生にお渡しした「地平線を埋め尽くす魔物の大群を」ってやつですね(笑)。それに近い事はあったかもしれないです。キャラクター以外にもロケーションやエリア、フィールドのデザイン、僕自身がそういう作業が好きなので、任せて頂ける事もあるんですが、2巻に登場する「ヨミカイン魔導図書館」はなかなか大変でした。三条先生からイメージの元は頂いていたんですけど、そこからさらに異形の図書館にしたい。そしてそれをどういう風に表現しようかなっていうのは、楽しみながらも結構悩んだ記憶がありますね。

――キャラクターだけじゃなく、フィールドも『勇者アバン』の魅力ですよね。第2話以降のお二人、それから編集部を交えた作業はどのような流れなんでしょう?
三条:最近の僕のやり方だと、基本漫画家さんと担当さんの両方に原作の初稿を送るんです。それで修正が必要な場合は二稿、三稿を作ってというスタイル。だから、まず、その初稿執筆で担当さんと協議して…というターンはないんですよ。コミックス派の人も多かろうという事で、コミックス1冊である程度の章がまとまるように構成してるんですが、たとえば『勇者アバン』は1冊に4話収録するので、4か月に1回はコミックスが出ると考えて、コミックスの1話目はもういきなり書いて、「2話3話4話はこうなります」というプロットを付けたものを送ります。それで原作を読んでもらったうえで、芝田さんと担当さんに、この章はこう展開するんだっていうお話を最初にしちゃいますね。昔はプロッティングを最初にして、この章はこれでいきますっていう話を担当さんとかと打ち合わせしながらやっていたんですけど、実は出だしの1本目を読んでもらってから「この後こうなります」と説明するほうが、より明確に意図が伝わると、経験上わかってきたんですよ。これならやり取りが1ターン少なくて済む (笑)。
芝田:やっぱり三条先生の経験と技というか、ほんとにその話その話で、僕が漫画にする上でのページ構成のイメージまで考えられたうえの分量で原作を書いてくださるんです。例えばアクションが多い回には文章量を少なめにして頂いたりだとか、最近だと第40話で、アバンがハドラーにストラッシュを決める最後の見開きを3連続で入れたんですけど、その話はかなり原作の文章量が少なくて、その分演出をたくさん膨らませてというような感じ。それなら大ゴマでいい絵をいっぱい入れようと、力が入りました。
三条:あのシーン、よかったですね!
芝田:ありがとうございます!
三条:最初のセッティングが割と重要で、最初に伝えておけば、漫画家さんも色々迷わなくて済むんですよ。

――最初に編集者と打ち合わせがあって、原作を編集者に見せて、編集者の修正が入った上で作画の先生に…という流れのイメージがあったんですが、編集者と同時に芝田先生も最初の読者になるんですね。
芝田:そうですよ~。ホントに出来立ての原作を僕にも送って頂けるので、それを読んでからだいたい翌日に編集さんを交えてビデオ通話などで三条先生と打ち合わせをしています。そこで気になった点や質問を投げさせてもらって…っていう形ですね。新キャラが出る回とか、新しい技をとか、そういうものに関しては、三条先生の覚え描きも原作と一緒に頂ける事があります。最近登場した「ゴーストハドラー」もそうですね。それをベースにしてデザインして、やり取りしながら詰めていくという感じでしたね。

――そのように『勇者アバン』の物語が紡がれていくんですね。三条先生、全体の物語構築はどのように創られていったのですか?
三条:たとえば『ダイの大冒険』の過去回想シーンなんかで既に描いた部分があるので、「ブロキーナはアバンと共にハドラーと戦った事がある」という事はわかっているじゃないですか。だから、それまでに知り合っておかなきゃいけない。ブロキーナはロモスの山中にいるから、だとしたらここだな…だったらもう、「大地斬」の誕生にもブロキーナが関わっていたとするのが一番綺麗だよね…というように、メインのストーリーラインのようなものを順番に配置して、そこに適した新しいキャラクターを登場させたり、既存のキャラクターで引っ張ったりというやり方をしていますね。既存のキャラが「実はこういう人物だった」という『ダイ』時代からのファンが楽しめるような部分ができたら、次は新しいキャラを出してバランスを取る。そうした方が新しいファンも既成のファンも、両方フラットな感じで読んでもらえるようになるんです。だから、たとえばキギロが出てきてレイラが加入して、マトリフが出てきてガンガディアと戦って……その後には「次は海波斬が必要だ」という展開がきます。海波斬なら海のエピソードだよね…それじゃあここは海系の新キャラを登場させよう、という風に。
芝田:あの海底に行くイベントで冒険感がすごく増しましたよね。「海に行くという事は…当然水着だ」みたいな話もありましたし(笑)。オトギリ姫とのエピソードで、『勇者アバン』の物語に深みが出ましたよね。例えば魔王軍以外にも魔物の勢力が存在している事だとか。
三条:あのエピソードでは、アバンが外見や種族なんかを最初から気にしていなかったという事を描いたつもりなんです。むしろオトギリ姫の方が気にしていた。アバンという人間の善性を知ったオトギリ姫が、死の直前に改めて惚れるという悲恋ですね。アバンの良さを引き出す上で、オトギリ姫は上手くできたキャラだったのではないかなと思います。
芝田:作画的には、実はこのエピソードでは、イケメンがボロボロになる姿が描けて、ちょっとテンションが上がりましたね(笑)。アバンがボロボロになるのは、この時点では珍しいなと思って。

――先ほどちょっとだけお話に上がりましたけど、「少年ジャンプ+」にはコメント欄がありますよね。そこでは『ダイ』時代からのファンの方からも、『勇者アバン』からの新しい読者の方からの反応もあったと思うのですが、先生たちはチェックされたりしているのですか?
三条:たまに見ますね。「ジャンプ+」さんで同時に掲載されるから、普通のVジャンプ連載よりも入稿が少し早かったりして、そこはちょっとハードだったりするんですけど、やっただけの事はあるというか、すぐにコメント欄やX(旧Twitter)なんかでリアクションが見られるじゃないですか。ファンの方が反応したところが明確にわかるので。「あ、ここ来たか!」っていう風にやっぱり思いますよ。
芝田:第43話のコメント欄では皆さん、「ロン・ベルク、ロン・ベルク、ロン・ベルク~」って書いてくださってて(笑)。
三条:まぁ、そこは「しめしめ」なんですけどね(笑)。「うんうん、みんな微塵も疑ってないぞ、よしよし」って思ってましたけど(笑)。
芝田:そうですね。あんなにみんな疑わないと思わなかったです。

――そういう時にはやっぱり、お二人も「ハマったな」と思われるんですね(笑)。
三条:「ねらい通りになったな」ってね(笑)。芝田先生も担当編集の金さんも『ダイ』のファンなので、最初に原作を渡してから翌日の原作打ち合わせの時の反応が、読者の皆さんの反応とほぼ同じなんですよ。金さんや芝田先生が喜んでくれると「これはハマった。大丈夫だぞ」というのがそこで分かる。その後でファンの皆さんの反応を再確認するんです。
芝田:第一部のラストで「魔剣シリーズ」の様な描写が出た時にも、僕は「おお!」って感じでした。
三条:だからあそこでは、「実はロン・ベルクではないので、ロン・ベルクにギリギリ見えるように隠してください」っていう、無茶な注文をするわけですけど(笑)。
芝田:そうなんです。その期待に応えるのが結構大変だったんです(笑)。後ろ姿で登場するキャラを自然に見せるのは意外と難しいなと思って。斜めで…夕方だから影を強くして。あんなに思わせぶりに顔に影が入ってるんだから、読者の皆さんにはバレちゃうんじゃないかな…と思ったんですけど、意外と皆さん素直に反応してくれてよかった(笑)。

――長髪で腰に魔剣を下げていて、しかも森の中ですからね。読者としてはロン・ベルクしか考えられなくなってしまいました。
芝田:そうなんですよね、魔剣下げてるっていうのがもうロン以外考えられないから。実は微妙にデザインも違うんですけどね。
三条:しかもあれはその直前にジャンクを出しておく事によってミスリードの罠を増やしているんですよね(笑)。
芝田:そうそう! ジャンクを出してるんですよ(笑)。
三条:「ジャンクが出てきた後に出てくるから引っかかるかな…多分」っていう。
芝田:狙い通りだと思います。皆さん、うまく引っかかってくださいました(笑)。

――読者の皆さんのコメントで心に残ってるものはありますか?
三条:『ダイの大冒険』のファンの方も、『勇者アバンと獄炎の魔王』からのファンになってくれた方も、それこそTVアニメの放送中から、皆さん本当に「あったかい」ですね。「描いてくれてありがとう」っていう言葉をたくさん頂いているので、こちらこそありがたいです。

――私を含めて、考察なんかもしてみるんですけど、そういうものも嬉しいものですか?
三条:嬉しいですよ。やはりそういうところもあった上で、ああだこうだ色々考察していただいて、なおかつ「結論はこうでした」みたいな時が一番楽しいですよね。その結論が不満足だった時はそうじゃないかもしれないけど、でも自分の結論と違ってても、その後面白く展開してくれるんだったら多分OKだと思うので。
芝田:そうですね。
三条:だから読者の皆さんには、色々考察してもらう、逆に考察してもらえるようにしておくのが面白いだろうなと思ってるんですよ。
芝田:あれですよね、「ガンガディアが持ち帰った魔導書って…あれ何の呪文なんだろう?」というシーンについて、読者の皆さんが色々考察されていましたけど、実はもうあの段階で「ドラゴラム」という事は決まっていたんですよね。だから後にガンガディアが修業しているシーンで、ベタにはしているんですけど、ほぼドラゴンの手を描いているんです(笑)。いろんな考察が書かれていて楽しかったです。
三条:あれはね、「メドローア」が出てくるから、それに対抗して「マホカンタ」だと思っていた人も多かったみたいですよ。
芝田:あ、なるほど、たしかに「マホカンタ」っていう読みもあり得そうですね。深い(笑)。
三条:だからやっぱり、そういう「こうかも、ああかも」っていうのを考察していただいたうえでこちらはカードを伏せておくのが一番面白い。…で、実際に出てきたカードが予想とは違ったとしても「なるほどな」って思ってくれると嬉しいな。その上で「アバンはなんでドラゴラムを使えたんだろう?」っていう出所がここでわかる仕掛けなので。

――「そこを拾ってくれるんだ」っていう嬉しさや感動もありますよね。中でも感動的だったのが「ギュータ編」なんですが、あのエピソードはマトリフやまぞっほの過去が知れるという意味でも美しいし、また一つの物語としても素晴らしかったです。
三条前回、『勇者アバン』誕生の経緯についてお話ししたのですが、本来はTVアニメが放送される2年間で連載は終了する予定だったんです。だから予定通りの話数だったら「ギュータ編」は描かれなかったんですよ。
――ええ!?
三条:読者の皆さんから支持を頂くようになって、コミックスもすごく売れて、担当編集の金さんから「これ急に終わったりしませんよね?」っていう念押しが度々来るようになって(笑)。「これは軌道に乗って来たな」というのが分かったので、「それじゃあ描きたいもの描こう」というエピソードが「ギュータ編」なんですよ。これを描いておくと、絶対後が違うなという確信があったんです。最終的に、なぜアバンが「先生」になろうと思ったのかの答えの一つを、ここでさらっと描いておきたかった。もともと学者家系という「下地」があって、第1部のラストでヒュンケルの「先生が欲しい」という言葉で「決断」するわけですが、その間にギュータで若者を指導したバルゴートという具体的な「理想像」が挟まると説得力が違うだろうなと。また、「マトリフ」というユニークな人物を分かってほしいっていう気持ちもありました。彼は「ギュータ編」の時点でもう80歳ぐらいなんですが、以後もスケベキャラでい続ける。でもここで彼のバックボーンがスッと渋く入ると、そのあとも決まるよねっていう想いもありました。
芝田:深みが出ましたよね、マトリフは本当に。
三条:その深みを出すための隠し味を、当初予定していたフルコースのレシピだったら、まあ入れられないだろうな…って思っていたのが可能になったので、遠慮なく自分の好みの味にしちゃいました(笑)。
芝田:これは支持してくださった読者の皆さんに感謝ですね、連載を続けられてこそですから。
三条:ありがたい話ですよね。「ギュータ編」は『勇者アバン』が成功したら一番描いてみたかったエピソードなんだけど、入れられる余裕ができたのは、本当に支持していただけたからです。

――読者としてはまさに「応援してよかった!」という事ですよね。
三条:そうですね(笑)。まあホント、マトリフというのは「格好いいところもあるスケベジジイ」って感じなんですけど、だけど彼が純粋に手を出せない女性が1人いて、その女性もまた長年マトリフを待ち続けていて、その事が最後に分かる…っていうのが綺麗な構図だなというか。
芝田:ああいうスケベキャラって、実は本命がちゃんといるみたいなところがすごく大事なポイントだったりしますもんね。
三条:本命には手を出せないっていうやつですよね(笑)。
芝田:あの「ギュータ編」の最後の話、カノンが亡くなってしまって…という場面は、原作をもらった段階でめちゃくちゃ泣けてしまって。これはすごく良いエピソードだけれど、この良さを上手くマンガにできるだろうかっていうプレッシャーが一番あったかもしれませんね。アクション満載の回よりも、あの静かな演出が自分の中では挑戦だなという部分も結構あったんですけど、結果的には三条先生にも「良いネームになりましたね」って言って頂けたのでよかったです。

――やはり会心のエピソードだったんですね!
三条:『勇者アバンと獄炎の魔王』は『ドラクエ』に近づけようというテーマのようなものが自分の中であって。『ダイの大冒険』は、週刊少年ジャンプの連載だったので、毎週人気を取らなきゃいけない。人気がなくて終わっちゃうのが一番『ドラクエ』に申し訳ないから、バトル漫画として作りながら『ドラクエ』のテイストを盛り込んでくというやり方をしていたんです。だから結構『ドラクエ』と離れている部分や、『ダイ』のオリジナルの部分がいっぱいあるんですけど、『勇者アバン』では逆に、軽はずみに強敵を出せないというか…ダイより強くするわけにはいかない。実際ハドラーもアバンも、『ダイ』の時代よりは弱いわけじゃないですか。そういう意味で「天井が決まってる」のが前日譚の一番の課題だなと思っていたので、読者の方に代わりの魅力を提供しなきゃいけないんですね。それってやっぱり「冒険の楽しさ」だったり、「土地の面白さ」「敵の面白さ」とか、そういう全体的な面白さだと思うので、つまるところ、それは『ドラクエ』に近づけるっていう事だよねと。「ドラクエ漫画」という冒険ものとして、アバンたちに面白い寄り道をさせた方が面白いだろうと思ったんです。だからやっぱり、あの「ギュータ編」のしんみりした感じっていうのも、実は堀井雄二さんテイストというか、『ドラクエ』をプレイしていると不意に襲ってくるドラマなんですよね。急に泣かせに来る。
芝田:天空の方にあるフィールドも、『ドラクエ』でもたびたび登場する舞台ですよね。

――なるほど。「ギュータ編」のマトリフしかり、物語が進むにつれて勇者一行と魔王軍幹部のキャラクターがより際立っていく流れがあったと思うのですが、第1部で、描いていて思い入れのあるキャラクターは誰でしょう?

三条:描いてて一番気合いが入るのはロカなんですよ。やっぱり読者の皆さんも含めて、ロカに感情移入ができるようになってないとノれないだろうからっていう。コンプレックスの話ではあるけれど、だから「倍頑張んなきゃ」みたいに思ってる人物というのは読者もノれるし、ロカの気質が皆を惹きつける。個性的なパーティが、実はロカを中心にまとまっていたっていうところも含めて、一番気合い入れて描けるのはロカなんですよね。

芝田:僕も出だしはずっとロカでしたね。キャラクター的にもアツくてまっすぐで。不器用な人物だから泣いたり笑ったりと表情の強さがあって、描いていて楽しかったです。でもやっぱりマトリフが出てくると…マトリフになりましたね。稲田先生が描かれていた『ダイ』後半の、ちょっとイケメンな顔を参考にさせて頂いたり。カッコよく決まった時は「決まったー!」という爽快感がありました。「ベタン」のシーンとかね(笑)。でも今度はマトリフに引っ張られて、ガンガディアがどんどん良いキャラになってきて…ガンガディアも描いていて楽しい。さらに女性を描くのも得意になってきて、レイラを描くのも楽しくなってきたりだとか(笑)。そんな感じで、描きながらその時その時、絵的にも演技的にも楽しいキャラクターというのがどんどん増えていった感じがありますね。…逆に実は、アバンがちょっと難しかったですね。

――…え、そうなんですか?
芝田:はい。正統派のイケメンだし、底の見え辛い人物像というのもあって、「このおどけは本心なのか演技なのか?」とか、パーセンテージでいうと、どれぐらい本心を見せているんだろう……とかも含めて。まあ、それでも『勇者アバン』では、それほどおどけるシーンはありませんでしたから、素はやっぱり真面目で、「先生」になった後に別のキャラクターを意識的に演じていったのかな…と納得したり。

――ヒュンケルと二人になって以降のアバンからは、独特の緊張感が漂っているように感じますね。仲良くしてほしい気はするんですけど(笑)。
芝田:ヒュンケルと出会ってからのアバン先生は、子供に対して親しみやすいようにちょっと表情を作っているというか、彼の中で意識している感じはありますよね。

――現在のヒュンケルからは想像もつかない、ヒラヒラの衣装姿も見られましたね。
芝田:あれは、作画の時に僕がアドリブを利かせちゃったんですよ(笑)。アバンとしてはヒュンケルには戦闘とは無縁の、ジニュアール家の養子として生きてほしいという想いがあって、だから、それらしい格好をさせているんだろうなって思ったんですよ。ドリファンに相談しながら。もちろん、単純にヒュンケルの意外なコスチューム姿を見たかったというのもありました(笑)。だけどヒュンケルとしては窮屈なので、それを着崩しているという感じのデザインで描いたんです。

――ヒュンケル自身はどんな気分なんだろう?とも思いますよね。
芝田:僕の中では「嫌だな…」と思いつつも、「人間の文明ってこんな感じなんだ」という興味のようなものもあるのかなと思いながら。でも結局、旅の服はまたさっぱりした格好に戻るんで、やっぱあっちが本来の自分っていう感覚なのかな? ぐらいの感じで描いてはいるんですけど。

――この時代のヒュンケルの心情ってすごく読み難いですよね。決して悪い子じゃないですからね。
芝田:そうなんですよね。そもそも『ダイ』を読んでいた頃には、ヒュンケルがジニュアール家で過ごしていたという事を僕も知らなかったので(笑)。屋敷で生活するという部分の面白さを膨らませた感じでしたね。

――ドリファンもすごく良いキャラですよね。ジニュアール家を守ってくれていたというのも嬉しかったです。
芝田:僕は三条先生の原作でヒュンケルとドリファンが絡んでいる箇所を読んだ時に、「不死騎団長になったヒュンケルがくさった死体のモルグを執事として雇っていたのは、そこにドリファンの面影を見てたのかな」…って感じたんですよね。
三条:不死騎団長になったヒュンケルが、自分の片腕になる者を魔物の中から選ぶ…という時に、彼はモルグを選ぶんです。それはドリファンの面影があったから。

――おお!芝田先生ドンピシャじゃないですか。
芝田:最終的に…そのシーンは描く事になりそうですかね?
三条:そこまでやるかどうかはわからないけど、例えば「不死騎団誕生」のシーンが出て来るとしたら描く事になるかもしれませんね(笑)。
芝田:そこまで見せられたらいいですよね(笑)。

――この続きの「未来」編は11月20日(水)公開予定!

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